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新春巻頭言

六十過ぎたら源氏物語を!

ICT海外ボランティア会特別顧問
元駐ケニア大使
宮村  智

 ICT海外ボランティア会の皆様、新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 当会は昨年11月、電友会ボランティア活動賞を受賞しました。こうした立派な賞に輝いたのは石井顧問・加藤事務局長・村上報道部長など当会の設立・運営を主導されてきた方々のご尽力とそれを支える会員の皆様のご理解とご協力の賜物であります。心から敬意を表するとともに、今回の受賞を機に当会が一層発展するよう祈念いたします。

 さて、今回は会員の多くが60歳以上であることに鑑み、源氏物語を取り上げて講読をお勧めすることにしました。私自身は62歳の時に誘いを受けて、高校同級生である男女3名ずつ計6名からなる「源氏倶楽部」と称する源氏物語の講読会に参加し、2009年1月から2年間かけて源氏物語を原文で読みました。

 購読会は、①予め各月に読む部分を決め、その部分を各自が予習してくる、②その上で、毎月1回集合し、輪番制の当番が自分の好きな箇所を読み上げ、解説を施す、③その後、自由に意見や感想を述べ合うなどして、2時間程度で終了する、というやり方で進められました。


WS000959 源氏物語の原文を読むのはとても難しくて、慣れるまでは随分と予習に時間がかかりました。しかしながら、内容が面白かったのと仲間がいたために、それなりに楽しく最後まで読み通すことができました。一度は読んでみたかった源氏物語を完読することができ、本当に良かったと思っています。完読して源氏物語は本当に素晴らしい作品であり、源氏物語こそ日本が世界に誇れる最大の文化遺産であろうと感じました。

 一言で片付ければ、「光源氏と多数の女君が織り成す愛憎ドラマ」である源氏物語が何故そんなに素晴らしいのか。識者が指摘し、私も同感する主な理由を挙げれば次のとおりです。

 第1に、登場人物がそれぞれに個性的で魅力的なことです。主人公の光源氏は高い身分、光り輝く美しい容貌、豊かな才能と教養など、あらゆる面で恵まれたスーパースターです。彼はまた非常に大らかでスケールが大きい人物であり、女君と一度でも関係を持てば一生世話をしようとする責任感も有しています。

 光源氏の相手となる多数の女君は生い立ち、境遇、性格、考え方などがそれぞれ異なりますが、個性的で魅力溢れる女君が揃っています。

 第2に、筋立てが巧みで面白く、語り口も上手なので、わくわくドキドキしながら、楽しく読み進められることです。また、登場人物の心理描写が細やかなので、近代小説を読むように内容の深さや濃さを味わうことができます。

 第3に、平安時代の百科事典と言われるほど、政治・経済・社会から宗教・文化・芸術・風俗習慣まであらゆる事柄について触れられている上、当時の男女間の重要な意思疎通の手段であった和歌が795首も織り込まれているので、源氏物語を色々な角度から読むことできることです。

WS000960こんなにも素晴しく、既に20以上もの外国語に翻訳されて海外でも評価が高い源氏物語ですが、実際に読んだ日本人はそう多くないと言われています。

 誰もが源氏物語の存在は知っているし、読みたいと思っている人も少なくないのに、どうして実際に読んだ人は少ないのか。その理由は次のようなハードルがあるからと考えられます。

 ハードルの第1は源氏物語が100万字、原稿用紙換算で2、500枚と長い上に、登場人物も430人以上と話が複雑なことです。

 第2は原文が天皇の妃のサロンにおける読み上げ用に書き下ろされたもので、一文が長い上にほとんどの主語が省略されているため、読むのがとても難しいことです。

 第3は光源氏のように多数の女性を相手にするドンファンが主人公で、不倫関係も珍しくない話には嫌悪感や抵抗感を持つ人も少なくないことです。

 しかしながら、こうしたハードルは多くの人にとって60歳を過ぎると相当低くなります。

 第1と第2のハードルはつきつめれば時間的制約ですから、退職や転職によって時間的な余裕が出てきたら、クリアしやすくなります。

 第3のハードルについても、歳を取れば、考え方がより柔軟になり、平安時代には一夫多妻制の方が多くの女性の生活保障にとって有効で合理的だったことが分かるようになると思います。

 他方で、60歳を過ぎる世の中の仕組みや男女の仲を含めた人間関係の機微について理解が深まり、花鳥風月にも関心を抱くようになるので、源氏物語の面白さや素晴らしさが一層分かるようになって、心の底から源氏物語を楽しめるようになります。

 これらが60歳を過ぎたら源氏物語を講読されることをお勧めする理由です。

 講読にあたっては、原文を独りで読み通すのは相当難しいので、源氏倶楽部のような講読会とか講師付きの講読ゼミに参加して、仲間と励まし合い刺激し合いながら、楽しんで読み進むのが良い方法だと思います。

 仲間がいると誰かが読み上げたのを耳で聴くという源氏物語本来の味わい方を楽しめます。また、源氏物語を題材に知的作業や遊びもできます。私共は源氏物語の各帖における名場面を選んだり、好きな和歌2句を選んで源氏百首を作ったりしました。

 講読会の最後には源氏物語の登場人物141人を現代の俳優が演じる配役表作ることにし、喧々諤々と盛り上がった議論をしました。そして、講読会が終了直後の2010年12月には6人の仲間で「源氏物語完読記念旅行」に出掛け、宇治・大津・京都の源氏物語ゆかりの地を訪問し、楽しい思い出を作りました。

 60歳を過ぎたら、きっとこうした講読会の仲間を募ることも容易になるのではないでしょうか。それでも、講読仲間を探すのが難しい場合は、原文でなくて、現代語訳を読んでみるのも十分に面白いと思います。海外ボランティアとして赴任する際に、荷物の中に与謝野晶子や瀬戸内寂聴訳の源氏物語を入れておくと趣味が良い人だと評判になるのではないでしょうか。

 以上、いろいろと書いてきましたが、実は「六十過ぎたら源氏物語」というのは高校時代からの友人であるK氏の主張で、私は彼の主張に全面的にWS000961賛同し、彼の了解を得て、この巻頭言を書いている次第です。

 K氏は大手商社で活躍した国際的なビジネスマンだったのですが、60歳近くになって日本の古典に興味を持ち始め、いくつかの古典を読んだ後、仲間に呼び掛けて源氏倶楽部を作り、同倶楽部の実質的な幹事役を務めてくれました。

 そして、源氏物語を完読した後も、引続き源氏物語の研究を続け、2012年7月には「源氏物語道しるべ」と題するブログ(http://sassa.kuri3.net/)を開設しました。そのブログも昨年9月に終了し、12月にはK氏と私を含めたブログのコメント役7人の計8人でブログ完了の旅に出掛け、宇治、京都、奈良の源氏物語ゆかりの地を訪ねて来たところです。

 最後にK氏自身が情熱を込めて源氏物語の講読を勧めるメッセージを紹介して、本稿を終えたいと存じます。

 「六十過ぎて世の中のことも概ね分かり、精神的にも余裕が出てきたら絶対に源氏物語です。お金はかからない、時間はかかる、知的満足感は得られる、言うことないじゃありませんか。

 究極の文化体験、源氏物語の世界に是非!!」 (了)

 

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